ともに譲らぬシーソーゲームで90分を5回で消化し、勝負は無死一、二塁で始まる特別延長へ。そしてサヨナラで決着したのは、開始時刻から2時間16分後だった。双方で27人がプレーした総力戦のなかで、看板プレーヤー同士の“珠玉の一騎打ち”も。盛りだくさんの一戦から、準々決勝のリポートを始めたい。
(写真&文=大久保克哉)
■準々決勝
◇8月11日◇坊っちゃんスタジアム
▽第1試合
同点、勝ち越し、同点、延長サヨナラ
[福岡]2年連続2回目
木屋瀬バンブーズ
0013000=4
0100301x=5
多賀少年野球クラブ
[滋賀]9大会連続19回目
※6回から特別延長
【木】永嶋、嘉戸、永嶋、嘉戸-石原
【多】川口、村井、岸本、生川、岸本、生川-生川、岸本、生川、岸本
二塁打/宮下、岸本(多)、竹元(木)、村井(多)
【評】1回戦以来の先発・多賀の川口凱生(5年)は、序盤でヒットは許すも得点は与えない。一方、3試合連続の先発となる木屋瀬の永嶋璃陽斗主将は、1回を三振併殺で切り抜け、2回裏の無死二塁のピンチもけん制死で切り抜けた。が、多賀は二死無走者から、宮下朝陽(5年)と岸本來橙の連続二塁打で先制。木屋瀬も負けていない。直後の3回表、二死二塁から三番・嘉戸惺一空(5年)が中前へ同点タイムリー。さらに4回表、2四死球と申告敬遠で二死満塁から、二番・竹元大翔の左翼線二塁打で4対1と勝ち越した。しかし、多賀も5回裏一死二、三塁から、途中出場の5年生・西邑叶惟の内野安打と敵失で2点を返し、五番・村井大翔の二塁打で4対4に。時間は90分を超えており、6回からタイブレークに。多賀は5回途中から再登板の生川友翔が、7回まで被安打ゼロの好投。そして7回裏の攻撃、犠打と申告敬遠で一死満塁から、生川の打席で初球エンドラン。投前へのゴロが変則的に跳ね、投手が捕り損ねる(内野安打)とほぼ同時に三走・安達琉斗が本塁へ飛び込み、サヨナラとなった。

多賀は2回裏、宮下(5年)㊤と岸本の連続二塁打で先制。木屋瀬は3回表、嘉戸(5年)の中前タイムリー㊦で1対1に


4回表、木屋瀬は二死満塁から竹元が左翼線へ鋭く打ち返す㊤。これで全走者生還で4対1、竹元は一塁を蹴って二塁へ㊦


5回裏、多賀は一死二、三塁から西邑(5年)の内野安打㊤と敵失で2点。さらに二死二塁から村井の左越え二塁打㊦で4対4に


多賀は中盤から2度登板した生川㊤が計3回を無安打の好投。7回裏、その生川が一死満塁からエンドラン(投ゴロ)を決め、三走の安達(5年)がサヨナラの生還㊦

―On-the-ground report―
神の演出!?2打席10球“珠玉の勝負”
『2026注目戦士❶』➡こちら)
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思わず出る笑み、だった。
4回裏、3点を追う多賀少年野球クラブの攻撃。二死二塁で右打席に入った岸本來橙は、バットをくるくると回しながら白い歯をのぞかせた(=㊦写真)。


岸本の視線の先、マウンドには木屋瀬バンブーズの大黒柱、永嶋璃陽斗(=㊤写真)。こちらの右腕もおそらく、バッターの顔を一直線に見据えていた。
「(永嶋が)学童野球メディアの注目選手で出てたので知っていた。めっちゃ球が速かったです」
そう振り返った岸本も、同コーナーの3人目で紹介されている二刀流だ。ふたりのマッチアップはこの試合が初めてで、2回裏の初対決では、しびれるような真っ向勝負を展開。その最中で、マウンドの永嶋に笑みものぞいた(=㊦写真)。
「目が合って、もうなんかニヤけてしまったというか…」

最初の対決は0対0の2回、状況は二死二塁だった。3試合連続で先発した永嶋は、ここでトップギアに入り、球速はすべて105㎞以上をマーク。打席の岸本はそれにフルスイングで応じ、2球連続のファウルで追い込まれてからは、3球連続でボール球をきっちりと見送ってフルカウントに。

その3球目のボール球は、球審の手が上がっても不思議のない外角ギリギリの108㎞(=㊤写真)で、投げ終わりの右腕はベンチに軽く戻りかけていた。判定は「ボール」で迎えた6球目、永嶋は捕手の構えた内角へ106㎞を投じ、岸本はそれを鮮やかにレフトへ弾き返してのエンタイトル二塁打(=㊦写真)。これで多賀が先制した。

そして迎えた第2ラウンドが、4回裏だった。形勢は木屋瀬の4対1リードと逆転していたが、状況はまたも二死二塁。戦術的な動きはほぼなく、投手と打者の一騎打ちとなりやすいケースである。
マウンドの永嶋はすでに56球を投げていたが、再びトップギアに。107㎞ボール、108㎞ボール、109㎞ストライクでカウント2-1。ここで一度セットを外した右腕は、ロジンに触れてから仕切り直しての4球目に、この試合最速となる111㎞を投じた。コースをわずかに外れて、判定はボール。

打席の岸本のバットは、ここまでピクリとも動いていない。カウント3-1、打者有利の状況となり、守る一塁側のベンチが動いた。木屋瀬の30番が出てきて、球審に「申告敬遠」を告げる。
「多賀のバッターはみんな怖かったけど、あの子(岸本)は特に。対戦前からマークしてましたし、2回に1本やられてましたから。不利のカウントになったので、次のバッターで勝負したほうがいいと」(中川芳生監督)

岸本とすれば、2度目の一騎打ちも決着をつけたかったのだろう。一塁へ向かう際には天を仰いだが、試合後は笑顔でこう言った。
「めっちゃ楽しい勝負でした」
一方、10番を背負うマウンドの右腕は私情を露呈することもなく、マウンドの周囲を歩きながら内外野へ声を掛けてポジションを修正。そして、次打者を見逃し三振に斬ってみせた。

「111㎞は自己最速? いえ、115ですけど、この大会はそれが最速です…」
チームとして敗れた永嶋は、ダグアウトを出てきてから号泣。岸本との対決についても、それ以上は話せなかった。だが、「めっちゃ速かった、めっちゃ楽しかった」という相手のコメントを伝えると、何度も頷いた。

禁じ手も反則まがいもなし。ダブーの疑念すら浮かばぬ、正々堂々の勝負。世代屈指の投手が思い切り腕を振り、また世代屈指の打者がピカイチの選球眼とマン振りで応じた。
全国の学童球児が憧れる夢舞台の準々決勝、岸本と永嶋の“珠玉の一騎打ち”は、2打席10球に及んだ。奇しくも、二死二塁という最適な状況を2度も演出したのは、野球の神様だったのかもしれない。ちなみに、一番打者の永嶋は5回打席に立ち、岸本は救援で2度登板したが、直接対決はなかった。
―Good Loser―
初出場から2年連続8強。“5年生の貯金”も伝統に!?

初出場の1年前は、後にホークスJr.となる石井爽介(現中1=『2025注目戦士⓴』➡こちら)を筆頭に、能力の高い6年生が8人。そしてベスト8まで躍進した(=㊦写真)。
そのなかで唯一の5年生レギュラーで、サク越えアーチも放っていた永嶋璃陽斗が、今年は背番号10をつけて夢舞台に戻ってきた。6年生はその主将を含めて7人。
「今年は去年ほど、すごい選手はいません」
就任33年目、昨秋に古希を迎えた中川芳生監督は、開幕前にそう話していた。紅一点の西川あやのは、女子選抜のFUKUOKAガールズの一員として、NPBガールズトーナメント出場(8月21日、滋賀県で開幕)を決めていたが、左前腕にギブスをしており、裏方や一塁ベースコーチに専念。

打線の五番から九番までは流動的で、途中交代を含めて複数人がプレーしながら、今年もベスト8まで勝ち進んできた。3回戦では相手に左中間へ二塁打を打たれた際に、途中出場の一塁手・三浦魁斗が当たり前に二塁のバックアップへ(=㊤写真)。こうして布陣や顔ぶれが変わっても、堅守は変わらなかった。

五番・河内誇吾㊤は初戦となる2回戦の2回に先制の二塁打。大町涼太㊦は2回戦、3回戦と左翼でスタメン、準々決勝は代打で登場
永嶋主将は常に、最大の拠り所であり続けた。迎えた準々決勝も先発してきっちりとゲームメイク。魂の入ったボールを投げ込み、4回1失点で5年生の嘉戸惺一空へとバトンタッチした。
打線は3回、4回と九番・舩川塁からつながった。3回には三番・嘉戸が同点タイムリー、4回は二番・竹元大翔の満塁走者一掃の二塁打で4対1と勝ち越した。

だが5回の守りで、2番手右腕が連続四球でピンチを招くと、不運な内野ゴロ(記録は内野安打と失策)で2点を失い、さらに同点二塁打を浴びてしまう。
「嘉戸は5年生ですけど、6年生の中に入っても十分に勝負できるピッチャー。ただ、多賀の打者は一枚上でしたね。ボールをおっつけて押し込むバッティングができる。ウチはそこまでは…」(中川監督)

汗か涙か。長い守りを4対4で終え、ベンチへ戻る5年生右腕は何度か、袖で顔を拭った。その下級生をグラブタッチで励ました背番号10は、特別延長の6回裏に再登板する。
犠打と申告敬遠で一死満塁の場面でマウンドへ上がると、トータル69球目で空振り三振を奪い、再び嘉戸に後を託した。

7回裏、一死満塁。またも不運めいた、変則的なゴロ打球でサヨナラ負けしたが、再登板した嘉戸の右腕は5回よりも明らかに振れているように見えた。
「若いチームで一生懸命にやった結果なので、しょうがない。ぜんぜん向こうのレベルが上でした。ウチとすれば、一番バッターの永嶋が1回も打って出られなかったのが敗因のひとつで、ふだんの野球ができなかった。でもホントに彼も目一杯にやってくれました」
そう話した指揮官は敗退からしばらくの間、永嶋へ直接に掛ける言葉がみつからなかったという。

敗れた後も「最後までしっかりやるぞ!」と、涙のナインを気丈に励まし、きっちりと挨拶までこなした背番号10だが、フィールドを背にすると堰を切ったように激しく泣きだした。
「去年ホントにいい経験をさせてもらったので、今年は何とかベスト8を超えようという気持ちでやってきたんですが…悔しいです…」

期待と重圧を一身に背負ってきただろう1年間、悩み苦しむこともあったという主将。だが、具体的なところは口にせず、母親と5年生たちへメッセージを贈った。
「母へ何か伝えたいこと? 全員のお母さんたちへ伝えたいです。これまでボクたちをしっかりと支えてくれて、ホントに感謝しています。5年生たちも、また全国に戻ってきてやってくれると思うので。ボクたちと去年のベスト8を超えられるように、イチからまたがんばってほしいです」
二塁手の一丸瑛人㊤は4年生から全国でプレー。同じく5年生の石原桜太㊦は、世代屈指の捕手となりそう

大会の準々決勝からは、アフターマッチファンクションが導入される関係で、それ以上の取材は叶わず。福岡へ帰郷したチームは、11月の九州大会(王貞治杯)へ向けてリスタート。予選の北九州市大会をすでに制し、10月10日からは県大会に臨むという。